読書

『彼女のいる背表紙』(堀江敏幸/マガジンハウス)

堀江敏幸の文章は、硬質だがキラリと光る鉱石のようだ。取っ付きにくい所もあるが、読み始めてその世界に浸かってしまうと、離れ難い。『彼女がいる背表紙』は、雑誌「クロワッサン」に連載(05.4~07.4)された文章をまとめた一冊。

具体的には「過去の書物の中で知り合った印象深い女性たちとの再会の企て」。一篇に一冊の本に登場する女性が取り上げられる。この取り上げられる本がまた、作者の名前は知っているが「こんな本あるの」というものばかり。

背表紙のむこうの彼女たちのもとへ出向き、言葉を交わすだけの話なのだが、再読とはいわば時間の層の掘り返しであり、場合によっては、避けて通ってきたものを見つめ直す、厳しい試練となる(後書き)

堀江敏幸のこの本もそうだし、池澤夏樹が個人編集している河出の「世界文学全集」や、それを具体的に語る教育テレビの「世界文学ワンダーランド」をみても、まだまだ未知の広大な領域に目がクラクラする。もっとじっくりと本を読む、まとまった時間が欲しいなぁ。。。

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『切れない糸』(坂本司/創元推理文庫)

池袋リブロでお薦めされていて購入した一冊。いわゆる青春ミステリィ。

大学四年生の主人公は、いきなり家業のクリーニング店を継ぐことに。当然、地域密着のこの家業。「我が道を行く」型の主人公も、仕事を通じて地元の人間関係や商売の厳しさを体感し、成長していく。

特に「東京、東京」の章は、そうだよなぁとドキッとしたり納得したり。

色恋沙汰を期待すると肩透かしだが、「日常的」ミステリィとしてすんなり読めて、読後にいろいろ考えさせられる。なかなかの秀作。

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『ユリ・ゲラーがやってきた』(鴨下信一/文春新書)

60年代・70年代という西暦ではなく、「昭和40年代」という切り口で書かれた本。自分が小学生から中学生の頃である。

まずは世相の話。「奇妙な不安が列島を覆った10年」。確かにいろいろな事件が起こった。飛行機事故やハイジャック、爆弾テロが相次いだり。3億円事件。三島由紀夫の割腹事件。子供心に、テレビを通して「事件」が次々に起こった印象。

そうした時代を「映画」だったり「歌」だったり「テレビドラマ」だったりと、幾つかの切り口で振り返っていく。成る程、そういう事だったのか。。。

今やユリ・ゲラーといって、分かる人がどれ位いるのだろうか。ポケモンのユンゲラーのモトネタとも言われているけど・・・

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『あしたはうんと遠くへいこう』(角田光代/角川文庫)

音楽をベースとした青春小説。

1984年の高校生の話(=BGM/ザ・スミス「ハウ・スーン・アズ・ナウ?」)から始まって、2000年の新たな旅立ち(=BGM/ティーンエイジファンクラブ「スタート・アゲイン」)まで、ヒロインが恋をして、あがいて、壊して、生きていく。その生き様とともに、その時代の音楽が鳴り響く。

大学生のヒロインがあこがれの彼と二人で飲み屋をバックレて、環七を走って逃げ、辿り着くのは「蚕糸の森公園」! なかなか辛い話も多いが、音楽に惹かれて最後まで一気読み。

思わず、CD棚の奥からティーンエイジ・ファンクラブ「ソングス・フロム・ノーザン・ブリテン」を引っ張り出して聴いてしまった。。。

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『バブル文化論』(原宏之/慶應義塾大学出版会)

1980年代は自分にとって、キャンパスライフを謳歌し(ただ酒を飲んでいただけ)、会社に入って仕事を覚えた(ただ酒を飲んでいただけ)時代。世間的には、徐々にバブルに向かって加速していった時代だ。

『バブル文化論』は、サブタイトルに ~<ポスト戦後>としての1980年代~ とあるように、1984~86年に戦後/ポスト戦後の断絶があり、1986~88年に日本の社会が「文化的バブル」に移行する、とのテーゼのもとに、その前後の相違を分析的に語っている。

雑誌などのメディア、ファッション、テレビドラマ(例えば「ふぞろいの林檎たち」「男女七人夏物語」)、そして「フジテレビの時代」とまでいわれた各種テレビ番組。これらを切り口にして、戦後脈々と続いてきた文化的な流れが断絶し、「バブル文化」が成立していく過程を語る。

個人的には、(酒ばっかり飲んでいて)貧乏でバブルの恩恵をほとんど受けなかったが、個々の事象や、その総体としての文化論にはうなずくことが多かった。

「70年代のバレンタインと1988年のサンタクロース」の話に少し泣いた(ノ_-。)

やや硬い本だが、同時代を生きた人間なら共感して一気に読めるのではないか。1980年代と「バブル文化」について語った、貴重な一冊。

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『彼女の知らない彼女』(里見蘭/新潮社)

2016年のオリンピックはリオに決まった。物凄く小さい頃に東京オリンピックを経験した人間としては、もう一度見てみたい思いもあった。ただ、逆に日本橋の上を高速道路が走る光景を見るにつけ、大規模開発のツケを払わされているなぁとも思うが。。。

そうした中で、「リオでオリンピックが開かれる世界」と「東京でオリンピックが開かれる世界」のパラレルワールド・スポーツ小説。SFの設定としては割とよくあるが、違和感なく上手く処理されている。

そして何よりもスポーツ小説としてのマラソンの描き方が秀逸。ラストのマラソン・レースの描写! SFどうこうは抜きに、純粋に楽しめる。

この小説は第二十回日本ファンタジーノベルス大賞優秀賞を受賞したらしい。この賞は第一回の酒見賢一『後宮小説』以来、結構好きな作家の登竜門となっているんだなぁ、とあらためて確認。

「スポーツの秋」(もはや死語か?)にお薦めの小説である。

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『ロードショーが待ち遠しい』(藤森益弘/文藝春秋)

サブタイトルに「早川龍雄氏の華麗な映画宣伝術」とあるように、1963年から30年近く、ワーナー・ブラザース日本支社の宣伝部でパブリシティを担当していた早川氏を通して、1960年代・70年代・80年代の映画業界を振り返っていくノンフィクション。

個人的にはやはり、自分達が中・高校生だった70年代の映画が懐かしかった。時代はまさにアメリカ映画の時代。「明日に向かって撃て!」「いちご白書」「ウッドストック」あたりから始まって「燃えよドラゴン」「エクソシスト」・・・ 映画が社会現象でもあり日常会話の中心であった時代。

「タワーリング・インフェルノ」の公開は1975年かぁ。今は亡き渋谷・東急文化会館のビル壁面全体を使って映画の宣伝をしていたのが懐かしい。70年代は大作映画が公開になる都度話題になり、主題歌も流行った。この本を読みながら何度も、映画名みては主題歌を口ずさんでしまった。。。

80年代のインディーズ系映画とミニシアター。映画は形を変えても、まだ存在感があった。バブル崩壊とビデオの普及。それすら20年位前か。自分が歳をとる訳だ。

懐かしく一気に読めてしまった。

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『ヤミ市 幻のガイドブック』(松平武/ちくま新書)

中野駅北口の飲み屋街は、どう考えても戦後のヤミ市のカゲが色濃く残っている。だが我々の世代は、そもそもヤミ市とは何であったのか良く知らない。手軽な新書でお勉強を。。。

そもそもヤミ市は戦後すぐに、山手線の主要ターミナルやその近郊で必要に迫られて発生していった。著者は江戸東京博物館の依頼で、新宿ヤミ市復元模型を作成すべく、ヤミ市とそこに暮らす人々の生活をシナリオ化し、再現した。

当然のことながらそこには、建物や、そこにひしめく人々、そのプロデューサ(=テキ屋や組組織)などなどが細かく調査され、鮮やかに描き出されている。

そうか、新宿駅の思い出横丁辺りは、どう見ても昔の面影そのままだが、実は東口の三越裏辺りから南口にかけても一大ヤミ市であったのか・・・

中野の話はあまり出てこないが、こちらもサンモールから一本はいった辺りから昭和新道にかけては、どう考えても元ヤミ市である。しかもそれは、我々が子供の頃まで色濃く残っていたような、朧げな記憶が。。。

なかなか勉強になる一冊であった。

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『テレビの青春』(今野敏/NTT出版)

日本でテレビ放送がスタートしたのは1953年。そして「ラジオ東京テレビ」(=今のTBS)が開局したのが1955年。そんなテレビの黎明期に著者の今野敏が入社した1959年以降の「青春」を描くノンフィクションである。

今野敏はAD(アシスタント・ディレクタ)としてスタートして実績をつみ、やがてドラマ「七人の刑事」をディレクタとして演出。黎明期のテレビで一時代を築いた人らしい。今野敏の同期入社は実相寺昭雄など、一期下は久世光彦である。

残念ながら我々の世代は「七人の刑事」の記憶はおぼろげ。どちらかというと実相寺昭雄の「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の話の方がピンときた。

この時期のテレビ局は、「新しい何か」を創ろうとするエネルギーみ満ち溢れ、様々な事件もおきた。そんな「青春」の後、著者たちは独立し「テレビマンユニオン」を立ち上げる。

500ページを越える大作だが、エピソードの一つひとつが面白く、また活気に溢れ、登場してくる人物達の「今」がわかっているだけに、一気に読んでしまった。実相寺昭雄も久世光彦も、はや鬼籍に入ってしまった。。。

1960年代の「熱気」に触れたい人にお勧めの一冊である。

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『東京箱庭鉄道』(原宏一/祥伝社)

原宏一の小説を読むのは、『ムボカ゛』以来だから8年ぶりか。今回は「鉄道小説」である。東京に小さくてよいので「本物の鉄道」をひこうというプロジェクト。予算は400億円。詐欺か、と疑いつつ走り始める主人公たち・・・

一つの案としての「新宿の東西を結ぶ鉄道」は、最近実際に同じ様なルートをワンコインバスが走るというニュースを見て、同じことを考える人もいるんだなぁと感心。

セロニアス・モンクからフュージョン系まで、所々に入るJAZZが良いアクセントになっている。小説としては多少甘いところもあるが、楽しく一気読みした。結構お勧めの小説である。

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